「わが子を殺害した親が許されるか」について(2023年12月テレフォン法話)

 今月は、「わが子を殺害した親が許されるか」について考えます。
 1年以上前ですが、見るのも恐ろしい番組をNHKEテレで見たことがあります。番組名は「玉砕の島を生きて」テニアン島 日本人移民の記録でした。戦前、サトウキビ栽培とさとう製糖のため15000人を超える日本人移民が南太平洋のテニアン島に渡りました。その中に、昭和2年福島県から結婚直後に移住した19歳と18歳の夫婦がいました。
 仕事は順調で5人の子どもを設けますが、太平洋戦争が勃発すると状況は一変します。隣のサイパン島を占領したアメリカ軍が、テニアン島に4万の兵で総攻撃をかけ日本軍は壊滅します。日本人の住人は島内の洞窟に避難しますが、夫を亡くした7人の家族も洞窟を探してさまよいます。やっと見つけた洞窟で、7組の小さい子供を連れた家族で隠れて暮らします。洞窟に一人の日本兵が迷い込み、「敵はすぐそこまで迫っている。みんな殺されるか捕虜になる。自分は手榴弾を持っている、捕虜になって辱めを受けるなら皆でこれで自決すると命じられます。日本兵は皆を周りに集め手榴弾を爆発させます。
 即死したのは日本兵と他一人の子どもだけで、あちこちから手榴弾の破片が体に刺さり痛い痛いと泣き叫ぶ子供の声が響きます。母親たちは子供を早く楽にさせようと泣きながら次々に殺害したそうです。この7人家族の母親も絶望して長男と3女を殺害します。残った子供は手に力がなくなり殺せなかったそうです。洞窟の中で多くの遺体とともに数日過ごしたころ、先にアメリカ軍の捕虜になった知り合いがやってきて捕虜になることを勧められ投降します。1年以上捕虜収容所にいて残った3人の子どもを連れ、母親は福島の生まれ故郷に帰還を果たします。
 この番組を見て、自身の手で我が子を殺害した多くの母親がいたことを知り、一生涯その罪の重さに苦しんだことを思うと戦争の残酷さを改めて思い知りました。
 以前から、世の中で人が受ける最大の苦しみは誤ってわが子を殺害した親ではないかと考えていました。時々ニュースで車で子どもを送ろうとしたときや除雪車を出そうとしたとき、突然前・後方に子供が出て轢き殺してしまった事件を知ることがあります。ニュースを見てこの父親はどれほど悲しみ、苦しみ我が身を責めたことか。一生毎日・毎時間我が子に詫び続けることになるのではと胸が痛みます。
 真言宗の重要なお経の一つに理趣経があります。最初にこのお経の意味を知ったとき大変驚かされました。第1段で男女の性愛行為を具体的に示していることから、まるで卑猥なエロ小説かと思える内容でした。そしてこれらの性愛行為を清らかな菩薩の行為として肯定しているのです。理趣経が説くように、全てが清らかな菩薩の行為であるなら誤って我が子を殺害しても許されるのではないか。テニアン島の母親も同じと考えます。
 菩薩とは観世音菩薩のように悩み、苦しみ、悲しみにくれる人々を救いたいと願い行動する存在です。人は皆助け合って生きています。ゆえに真面目に生きている人間は全て菩薩なのです。我が子を誤って殺害した親が亡くなったとき、仏の世界で待つ子供に泣きながら詫びると思います。お子さんは「大丈夫、お父さんお母さんの気持ちはよく分かっているよ。また以前のように可愛がって育てて」と笑顔で応えてくれると考えます。


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