「大切な人を亡くした悲しみ」について(2023年9月テレフォン法話)

 今月は、「大切な人を亡くした悲しみ」について考えます。
 私の所属している真言宗豊山派では、毎年年4回春・夏・秋・冬号の布教誌「光明」を発行しています。今年の夏号では、「大切な人を亡くしたあなたへ」と題する特集が組まれ、日本で唯一の「遺族外来」がある病院の二人の先生のお話が掲載されました。
 担当の精神科専門医の先生は、「患者が亡くなった後も、遺族としての精神的な苦しみをケアできる場所が必要だと思い、遺族外来を開設しました。」と話し、「配偶者を失った人の多くが、2年間くらいは回復が難しいと考えており、1年目は生きていてくださいと伝えます。再スタートは2年後の3回忌を目標にしようと言っています。子供を失った人は5年か6年ですね。」と語っています。
 大切な人とは配偶者であり、子どもであり、親であり、兄弟であり、友人であり人それぞれですが、それほどまでに人の死を悲しむことができるのは、悲しむ人が仏様のように優しい心を持っていることを意味しています。亡くした人を深く思いやり愛し悲しむことができるのは、慈悲の心を持つ人間にしかできない仏の行いと考えます。
 以前テレビのニュース番組で、ロシアの侵攻により戦死したウクライナ兵の十字架のお墓が無数に立ち並ぶ墓地が放映されましたが、お墓の前に立ちすくむ若い女性が「私は彼の全てでした。彼は私の全てでした。全てを失った私たちはどうしたら・・・」と涙にくれていました。女性は、永遠に消えることがない深い悲しみにより、やがて彼といつまでも人生を共にしていると感じられる日が来ることを念じ、1日も早いウクライナの人たちへの平和の訪れを祈りました。
 精神科の先生は、悲しみにくれる遺族にやってはいけないこととして、何気ないアドバイスや「早く元気になりなさい」「もっと大変な人がいるんだから」「あなたの気持ちはよくわかる」といった声掛けは、意図せずとも相手を傷つけることがあると知ってほしいと語っています。この一文を読んで、突然大切な人を亡くした方に、葬儀の場で先生がいわれる言ってはいけない、「私も同じ経験があります」といったアドバイスをしてしまったことを思い出し、今はご遺族に申し訳ない気持ちで一杯です。
 文中に、仏教には一周忌や三回忌といった年回忌法要がありますが、遺族ケアに極めて重要なことだと思っています。故人の命日のような記念日には、亡くなった直後のような症状が再燃してしまうのです。だからこそ、死別して1年後や2年後は心を休める時期なんです。その時期にちょうど供養の行事があることに、深い意味があると思いますと言っておられます。その一周忌や三回忌の折、僧侶としてご遺族にどのように接すればよいか考えさせられます。
 東日本大震災後に、瀬戸内寂聴さんが岩手天台寺での青空説法で、夫を津波で亡くし泣きながら瀬戸内さんに縋りつく女性に、優しく肩を抱きながら「泣きたいときはうんと泣きなさい、でもね、いつか必ずあなたもご主人さんのところへ行くんだから、そのことは忘れないで」と瀬戸内さんが話しかけた情景が思い出されました。特集の最後に、大切な人を亡くしてつらい思いをされている方に、遺族外来の先生からのメッセージは「あなたも大丈夫」でした。


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