「これ以上ない苦しみ」について(2024年4月テレフォン法話)

 今月は、「これ以上ない苦しみ」について考えます。
 NHKEテレの「カンニング竹山が電話で話を聞きます」を見ました。この番組はタレントのカンニング竹山さんが「どんなことでもいい、何か話したいことがあったら電話してください」と電話番号を公開するものです。30分ほどの間に5人の方から電話がありました。その中のお一人の電話が気になって、放送が終わっても考えさせられました。
 その女性は、はっきりした言葉で北陸に住む40代です。今日は、東京にいます。乳がんの治療に新幹線で東京の病院に定期的に通っていて、しばらくこちらにいます。高校生2人と小学生の3人の子供がいます。余命が少なくなってきたので、東京に通わず地元で子供と穏やかな生活を送った方がいいのか迷っていますと話されました。
 竹山さんは、子供たちはきっとお母さんに長く生きてほしいと思っているよ、余命は何年って言われたのと聞き返しました。女性は、もう折り返し点が来ていて最初に2年と言われたので残り1年くらいと答えました。それで少しでも長くするよう東京に通っているんだね、子供たちもわかっていると思うよと竹山さんが応じました。彼女が、長女がもうすぐ誕生日なんですが料理を作る力が無くなっていると話すと、竹山さんはじゃあケーキを買ってお祝いしてあげたらと提案しました。最後に、女性は優しい竹山さんのフアンなので、今日お話しできてとてもうれしかったと明るい声で電話を切りました。
 私はこの女性からの電話を聞いて、彼女は人が抱くこれ以上ない苦しみの中にいると感じました。多くの女性は、自ら生んだ子供を最善の努力をして育て、成長して幸せな生活をおくる姿を見ることが人生最大の望みと考えていると推察します。その望みが絶たれ、子供を護ることができなくなり、子供たちに母親を失う大きな悲しみを与えてしまうと考えたとき、深い苦しみ、不安、子供への罪の意識に苛まれているのではないかと想い、胸が締め付けられるような気がしました。
 私は、心の中で女性に話しかけました。貴女は、お子さんたちに二つの素晴らしい贈り物しました。一つは人としての命です。仏教の開祖釈迦は、人としてこの世に生まれることがどれほど難しく、大切なことであるかを説きました。
また釈迦は、人は宇宙で永遠に一人しかいない優れた存在であるとも諭しました。このことはこの世で人だけが独自の希望を持ち、夢の実現に向け生きていけることを意味します。さらに、仏教では人は生まれながらにして優しい慈悲の心と正しい智慧を持つ仏であると教えます。貴女は、夢を持ち仏として生きる三人に貴女にしかできない命を与えたのです。
 もう一つの贈り物は、あなたの優れた遺伝子が三人のお子さんに受け継がれたことです。人は、無数の遺伝子を親や先祖から受け継ぐことにより、個性豊かな様々な能力に恵まれた人となり、互いに助け合い人間社会の発展に貢献します。三人のお子さんは、将来必ずお母さんから特別な遺伝子を受け継いだことに感謝し、自らの子供へと貴女の遺伝子を受け継いでいきます。子供たちは、貴女が自分たちのためにがんと闘って必死に生きようとする姿を目に焼き付け、人生で困難に立ち向かうとき母の姿を思い起こし、いつも貴女と一緒に乗り越えていきますよ。


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