「佐渡のお寺の不思議な魅力」について(2024年3月テレフォン法話)

 今月は、「佐渡のお寺の不思議な魅力」」について考えます。
 新潟日報の日報抄に佐渡について書かれていました。書き出しは「化け物がでそうな独特の空気感があった。」映画監督の富名哲也さんは佐渡の第一印象をこう振り返ったとあります。これは、もしかしたら佐渡のお寺のことを云っているのではと思いました。途中、富名さんは佐渡を「あちらの世界とこちらの世界の間にあるような場所と形容する。」と述べています。後半に、「金山のほか、往時の面影を伝える史跡や神社仏閣が数多く残る。時の流れから取り残されたような荒涼とした場所もある。世の無常を感じさせる神秘性も、島の魅力の一つかもしれない。」と記されています。
 この一文を読んで、佐渡のお寺の持つ独特の雰囲気を表現しておられると感じました。東京や新潟のお寺に出入りしましたが、あの豪華荘厳さではなく、旅行で行った京都や奈良のお寺の、壮大な伽藍や見事な仏像が並ぶ圧倒される感じではなく、少し怖くて懐かしさを感じるのが佐渡のお寺です。
 佐渡のお寺が、どうして監督が言う「あちらの世界とこちらの世界の間にあるような場所」なのか。佐渡では、お寺に先祖がお世話になっていると云います。お寺は死んだら行く場所との考えがあるのです。大分前母から聞きましたが、親戚のおばあさんが危ないというので駆け付けたところ、皆さんおばあさんが寝ている枕元で声をかけていたそうです。娘さんの一人が「おばあさん今どこにいるんさ」と聞いたところ、おばあさんは目をつむったまま菩提寺の名を言って「寺の本堂の丸柱にしがみついている」と答えたそうです。続けて「周りの柱に何人もしがみついている、さっき一人落ちた」と話すのを聞いて、皆さんおばあさんの魂はもう寺に行っていると感じたそうです。寺にお参りに来ると、あの世とこの世の間の本堂にいる、亡くなった大切な人に会えると思えるのかもしれません。
 佐渡には、訪れたら心が満たされる不思議な魅力を有するお寺が数多くあります。その一つに畑野の長谷寺があります。背後に山が迫り、季節の花々が参拝者の目を楽しませてくれる豊かな自然に包まれ、悠久の歴史を感じさせる15の国登録文化財の建物が参拝者を迎え入れます。堂内・境内には、国指定重要文化財の三体の十一面観音を始め、県指定重要文化財の八体の仏像、他で見られない県指定天然記念物三本杉と高野槙の大木などに出会うことができます。それとあの世とこの世の間にいる大切な人に会えるかもしれません。
 佐渡には、お寺とは別に数え切れないほどのお堂があります。その一つ一つが地域の人にとって大切な信仰の場であり、長い間守られてきました。その一つに河崎の五郎兵衛堂があります。中に入ると、堂内奥の右壁面に地獄の世界が表現され、壇上にはリアルな表情の迫力ある十王像、口が耳まで裂けた三途河婆、牛と馬の顔をした地獄の鬼、他にも身も凍るような恐ろしい姿の像に言葉を失います。背後には壁いっぱいに地獄絵が描かれています。人々は、亡き人が四九日の冥土の旅で閻魔大王を始めとする十王様に裁かれると聞き、五郎兵衛堂にお参りして大切な人の死後の無事を祈りました。
 佐渡は、今年夏に世界遺産に登録されますが、世界の人に、金の島であると同時に、信仰の島であることを知っていただきたいと願います。


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