「本当の私」について(2021年6月テレフォン法話)

 今月は、「本当の私」について考えます。
 先々月何気なくNHKEテレを見ていたら、テレビ画面いっぱいに目を見張るような印象的なキリンやゾウ、シマウマ、ゴリラなどの動物の絵が映っていました。新聞のテレビ番組欄をみたら「絵が自由をくれた~自閉症の画家と家族~」という番組でした。
 番組で紹介していたのは、福岡県内の自閉症の子供を持つ家族の話しで、母親は現在39歳の次男が2歳のとき自閉症と診断され、家族が暗い気持ちで暮らしていたと話しました。兄は、弟の存在を隠して、友達に3人兄弟なのに2人兄弟と言っていたそうです。母親はこの子に何か一つできることがないかと考え、10歳のとき近くの絵画教室に通わせました。最初の2年間は形を表現することさえできなかったそうですが、少しずつ自分なりの表現ができるようになり、17歳の時描いた青いカサブランカの絵を見て次男の才能を確信しましたが、ほどなく著名な展覧会で賞を取り画家として認められたそうです。兄も弟が何でこんなに自由に絵で表現できるのかと、いつしか尊敬の気持ちを持つようになり、弟の絵をもっと多くの人に見てもらいたいと考え、弟の描いた絵を福祉施設や病院などに貸し出す事業を始めて、弟の絵を中心に家族が自由にひとつになれたと話しています。
 貸し出されたところで絵を見ている人たちが、癒されますとか、元気をもらっていますとか、次回にどんな絵がくるのか楽しみですと話しているのを聴いて、この自閉症の画家の絵の魅力とは何か考えてみました。一つは、彼の描く動物にしても花にしてもみな生き生きとしているところです。まるで生命あることを喜び楽しんでいるかのようです。つぎにどの動物もライオンのような猛獣でさえ優しい目をしています。また、色遣いが既成概念にとらわれず青色のカサブランカであったり、富士山の頂上の雪の下がすそ野まで真っ赤に塗られていたりします。私は、この画家がこのように自由な表現ができるのはほとんど教育を受けることなく、本やテレビから情報を得ることもなく、描く対象がこういうものだという知識がないことから、自分の目で見た、心で感じたもの、画家にとって本当のものを捉えることができているのではと考えます。
 翻って、本当の私・人間とは何かを考えてみます。仏教の言葉に「如実知自心」があり、その意味は本当の自分を知る心ということになります。真言宗の最も重要なお経の一つ大日経に「悟りとはこの如実知自心である」と説かれています。大日経が説く如実知自心とは「人は宇宙の真理を知る智慧と悩み苦しむ生きとし生けるものを救わんとする大悲の心を持つ」を自覚することであり、このことを悟ったものは大日如来と一体になると教えておられると考えます。  沢木興道老師が講話の中で「信濃には田毎の月という言葉がある。このように全ての人の心の中に観音様が住んでおられる」と話されました。このお話は、長野県は山国で平地が少なく千枚田のように山の上まで小さな段々田んぼがあるが、その全ての田に月が映っているように、全ての人の心に慈悲深い観音様が宿っていると説いておられるのです。
 結論を申し上げます。「本当の私とは、人は皆大日如来であり、観音様であるということに他なりません。」


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