今月は、「愛」について考えます。
本年6月20日に歌手で俳優の美輪明宏さんが91才で亡くなりました。美輪さんは、長崎市の出身で10歳のとき長崎に投下された原爆により、多くの親族や友人を失うという体験をしました。終戦後、音楽への思いを胸に15歳で上京して国立音楽高で学び歌手活動を始めますが、無償の愛を歌った自作の「ヨイトマケの唄」が大ヒットします。俳優としても活動しますが、三島由紀夫が脚本を手がけた舞台「黒蜥蜴」などに主演し、中世的なあでやかさで高い評価を得ました。また美輪さんは、幼くして長崎で原爆に被爆し悲惨な光景を目の当たりにしたことから、自らの体験を語り、反戦平和を訴え闘い続けました。
テレビの画面に映る美輪さんを見て、黄金色の長髪で艶やかな衣装に女装される姿に、私の常識では理解できないものを感じました。偶然、テレビで身の上相談のような番組を見ましたが、回答者は三輪さんでした。涙ながらに悩み・苦しみを訴える相談者に、美輪さんは優しく穏やかに語りかけます。頷きながら聞いている相談者の皆さんは、最後は笑い泣きをしながら「そう考えればいいんですね!わかりました!ありがとうございました!」と言って美輪さんに頭を下げていました。この光景を見て、様々な悩み苦しみに応えられる美輪さんは、想像を超えるご苦労をされそれを乗り越えたからこそ救いの手を差し伸べることができると感じ、あの異様なお姿から想像できない美輪さんの真のお人柄を知りました。美輪さんの訃報を伝えた所属事務所は、次の美輪さん生前の直筆のメッセージを公開しました。
「こんな世の中を生き抜く武器は 愛の言葉しかありません この世のすべての問題を解く鍵は 愛です 愛があれば 戦争なんか起こりません 美輪明宏」このメッセージを知って、身の上相談のテレビ番組で相談者を救うことができたのは、美輪さんが愛の言葉をもって相談者に語りかけたことに他なりません。最後の愛があれば戦争なんか起こりませんの言葉は、美輪さんが長年反戦平和を訴え続けた信念にもとずくものと考えます。
キリスト教は、愛の宗教と云われます。聖書に「汝の隣人を愛せよ」の言葉があることから、信者の方は苦しみ悲しむものに無償の愛を与えます。ノーベル平和賞を受賞したマザーテレサは、インドのカルカッタの教会に赴任し、町中に溢れる住む家もない、食べるものもない病気の人たちを見て一大決心をします。世界中から寄付を募り、救護の施設を造ってそれらの貧しい人たちを収容し、テレサ自身古ぼけた黒の布をまとい先頭に立って食事を配り、薬を与え愛の言葉をかけ続けました。
仏教の教えでは、無償の愛と同じように慈悲の心があります。慈悲の慈は、いつくしむ思いやる心を意味し、悲は悲しみです。慈悲とは、悲しみ苦しむものを大切にし、思いやり、救いたいとする全ての人が持って生まれた仏の心です。慈悲について考えるとき、頭に浮かぶのは宮沢賢治の雨ニモマケズの詩です。あの詩には、全てに慈悲の心が溢れています。そして、賢治は生涯にわたって慈悲を実践しました。宮沢賢治は、法華経から慈悲の心を学びました。美輪さん最期は、「ありがとう」と感謝の言葉を口にし、目を閉じたと報じられました。