「本当の優しさ」について(2025年2月テレフォン法話)

 今月は、「本当の優しさ」について考えます。
 NHKEテレの「偉人の年収」太宰治の稼ぎは?ダメ男なのになぜ愛されるを見ました。偉人の年収の番組は、日本の歴史上有名な人の生い立ちや知られない人生が垣間見れることから興味深い番組です。番組の冒頭、小説家太宰治の作品人間失格が今なお世界の若者に愛され、走れメロスが中学校の教科書に載っていると紹介されました。太宰治は、明治42年青森県津軽の大地主の家に生まれ、11人兄弟の10番目でした。後に東大に入学しますが、ほとんど大学に行かず実家からの仕送りを酒と女、遊びに費やす生活をおくります。そんな中でも中学時代から書いていた小説への意欲を失わず、敗戦後の混乱の中で苦しむ人々とともに苦しみ、強く生きる女性の姿を描いた斜陽のような作品を次々と発表し、流行作家となります。代表作人間失格を書き上げてから1か月後、昭和23年、1年前知り合った女性と2度目の心中を図り38才で亡くなります。
 この番組を見て最も印象に残ったのは、太宰が友人に宛てた手紙の中で、一番優れた作家とは「優しい人」のことと記し、優しいの優の字は人が憂えると書く、優しい人とは憂えている人に寄り添う人のことをいうと書いていることです。憂えるとは、辞書に嘆き悲しみで心が晴れない状態、心配と不安で憂鬱な状態とあります。そんな憂えている人に寄り添う人こそ本当の優しさを持つ人といえるのではないでしょうか。太宰は本当の優しさを持つ作家だったのです。そう考えると2度の心中事件を起こし社会に衝撃を与えたことも、深く憂えている女性に寄り添った太宰なりの優しさだったのかもしれません。
 仏教の教えでは、人は生まれながらに慈悲の心をもっていると説きます。慈悲とは、悩み苦しみ悲しむ人を救いたいとの強い思いから行動することを意味します。太宰のいう優しい人とは、慈悲という本当の優しさを持ち行動する人のことかと考えます。
 自分の周りを見ると、慈悲の心を持つ優しい人に出会うことがよくあります。
先月アメリカでトランプ大統領が就任しましたが、アメリカフアーストの理念のもと過激な政策を矢継ぎ早に打ち出し、アメリカはもとより世界に不安と混乱を生じさせています。その一つに、主に中南米からの不法移民の人たちを強制送還する政策を直ちに実施すると宣言していることがあります。ニュース番組で、トランプ大統領が夫人とともにワシントンの教会を訪れ礼拝に参加した様子が見られました。礼拝が終わって、主教の女性が参加者に説教をしましたが、彼女は次のように静かに大統領に語りかけました。「移民の圧倒的多数は犯罪者ではない。良い隣人だ。私たちの地域社会にも、親が連れ去られるのではないかと恐れている子供たちがいる。慈悲心を持ってください。」礼拝後、記者団にトランプ大統領は「良い礼拝ではなかった」と不満を述べていました。
 ニュースを見た人は皆心配したはずです。トランプ大統領は、就任後自己に批判的な公的立場にいる人たちに「お前はクビだ」と叫び実行しています。この女性も主教を辞めさせられるかもしれません。彼女は、クビを恐れず強制送還におびえる人たちを守るため世界一の権力者に正義と慈悲を説いたのです。彼女もまた、本当の優しさ慈悲の心を持つ神・仏なのです。


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