今月は、「智慧」について考えます。
2月4日が世界対がんデーであることから新聞にがん患者さんのことが載っていました。その中のお一人に「がんになって50年、手術7回、仲間と乗り越えてきた」のタイトルで83歳の男性が紹介されていました。
がんと闘う力は人とのつながりと書かれたTシャツを着て、こぶしを上げる爽やかな笑顔の男性の写真が目に留まりました。記事では、32歳で甲状腺がんがみつかり手術を受け、75歳での肝臓がん摘出まで入院と手術を重ねた。「絶対あきらめない。気持ちで負けないことが大事です」と語っています。再発を覚悟して検査を欠かさず、生活習慣を見直して、免疫力をあげようと笑顔を心がけたそうです。定年後、がん征圧をめざすチャリティ活動「リレー・フォー・ライフ」に関わり、「ご縁と出会いを大切に生きれば、力はわいてくる」と話します。最後に「こんなに長く生きられると思わなかった。がんのおかげかもしれん」と言っておられます。この記事を読んで、人の持つ智慧の力の大きさを痛感しました。男性はあらゆる智慧をはたらかせてがんと闘い克服してきたのです。
仏教は智慧と慈悲の宗教と説明する宗教家がいますが、人間だけが持つ智慧は自他の苦しみ、悲しみを取り除く大きな力となります。仏教の開祖釈迦が説いた教えいわれる古いお経「ダンマパダ」に、「智慧ある老人になる方法」の一文があります。内容は「髪の毛が白くなったからといって、彼は智慧ある老人とは限らない。ただ歳を重ねただけの、むなしく老いぼれた人は世に多い。お前が歳をとるのならば、そのときには誠実で、人格があり、悲しみに溢れ、何をしても他人をそこなうことなく、また慎み深く、身と心がいつもととのった、そういう人になるように。」と書かれています。
話変わりますが、以前、最後の瞽女といわれた小林ハルさんの写真展を見たことがありますが、大きく拡大された顔写真を見て衝撃を受けました。百歳近い時の写真かと思いますが顔中一面に深いしわで覆われ、とても人間の顔とは思えません。後日、両津図書館から「最後の瞽女 小林ハルの人生」の本を借りて読み、あの深いしわはハルさんの想像を絶する苦難の人生を物語っていることを知りました。
ハルさんは、明治33年現新潟県三条市の寒村で生まれ、白内障で生後3か月で失明し、5歳のとき瞽女にもらわれます。瞽女とは、盲目の女旅芸人のことで、三味線に合わせて唄を唄いながら村々を回り歩きます。5歳からの指や喉から血が出るような厳しい修行をへて、8歳から巡業にでました。昭和48年73歳で廃業して老人ホームへ入るまでの65年間にわたり新潟県・山形県・福島県の各地を三味線を弾き瞽女唄を唄い回り歩きました。この間、家族、弟子入りした親方、弟子の先輩、村の子供たちや若い男性、案内の手引きなどから、絶えず暴言、暴力、差別を受けます。ひどい暴力を受け子どもを産めない体になったといいます。
ハルさんの言葉に「悪い人に会ったときは修行、いい人に会ったときは祭り」があります。ハルさんはあまりに苦しい瞽女の人生を、悪いことは自分を高める修行と考え、いいことは楽しい祭りと考える智慧の力で乗り越えることができたのです。