初期のお経「法句経」について(2025年7月テレフォン法話)

 今月は、初期のお経「法句経」について考えます。
 本棚の、般若心経等13の重要なお経を解説した「いちばんやさしい仏教とお経の本」を読み直してみました。その中の法句経について紹介します。冒頭、法句経は、初期のお経で、ブッダの肉声に近いものを伝えるといわれています。 
 ここでいうブッダとは、仏教の開祖釈迦を意味します。法句経の特徴は、短い言葉で様々な人生訓が説かれていることですと書かれています。文中の法句経の2句を取り上げます。
 最初は、「励むことは生きる道である。なにもせずのん気にすごすことは死にいたる道である。したがって、励む人は死ぬことはない。のん気にすごす人は、生きていても死んでいるのと同じである。」の句があります。この句は、人は生きている限り人間にしかできない何かに打ち込むことが大切で、そうすれば死の恐怖を忘れることができる。と教えています。
 先日、NHKEテレの日曜美術館を見ましたが、かってみた中で最も衝撃的な絵画の数々に深い感動を覚えました。番組のタイトルは、破壊と創造中村正義・異端の素顔で、川崎市の自宅を改装した「中村正義の美術館」を訪れた二人の女性コメンテーターを待ち受けていたのは、壁一杯の自分の顔と題する自画像でした。数多くの作品は一つとして同じ顔がなく、とても日本画とは思えないピカソの絵のような強烈なインパクトがあります。ナレーションが「病に侵され死が迫りくる中、自らの心の奥底を見つめ続けました。」とながれました。その後も中村画伯の風景画、裸の舞妓、源平合戦絵巻等ジャンルの異なる作品が映し出されましたが、いずれも同じ人が描いたとは信じられないような見事に描き分けたものですごいの一言でした。
 後半、中村画伯が43才で直腸がんの手術を受け、その後がんの転移が見つかったとナレーションが入ります。美術館館長の画伯長女の方が、「長くて3年と告げられ、死の恐怖から逃れるため物をつくることに没頭した。」と語っていました。実際余命を告げられてからも、自分の顔、ピエロの絵、遺作舞子等の作品を描き上げ、最後に水墨画のような淡い黒の自画像を残して昭和52年、52歳でこの世を去りました。
 中村画伯の人生は、法句経の励む人は死ぬことはないを実践されたと感じます。残された作品の中に鮮明に画家中村正義は生きています。
 次の句は、戦場で千度、一千の敵兵に勝つ人よりも、ただ一人、自分自身に勝つ人のほうが勇敢な勝者である。と教えています。実際、自分自身に勝つことがいかに重要でいかに難しいか、やらなければいけないことでもやりたくない。諦めなければならないことでも諦められない。他の人の成功をうらやましく思い自分がみじめになる等日々体験させられます。
 仏教の教えでは、自分自身に勝つ唯一の方法は、人の抱く限りない欲望の煩悩を捨てることと諭します。自分自身に勝つことができれば、自身も周りの人も幸せを手に入れることができると考えます。
 本の中で、紀元後漢訳された法句経では752の言葉が収められていると記されています。釈迦は、仏に成ることを目指して仏教を始めたと中村元博士は著書で延べ、釈迦の目指した仏とは最高の人格者のことと話されました。今回紹介した2句以外の法句経の残り750句を理解すれば、誰でも仏に成れるのではないでしょうか。


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