今月は、「八正道」について考えます。
仏教の開祖釈迦は、生老病死をはじめとする人のあらゆる苦しみの原因は人間の限りない欲望を意味する煩悩にあると悟りました。また、煩悩を適切にコントロールする方法として八の正しい道八正道の修行を積むよう説きました。
八正道とは、正しい見方の正見、正しい考え方の正思惟、正しい言葉の正語、正しい行いの正業、正しい生活の正命、正しい努力の正精進、正しい念いの正念、正しい心の統一の正定の八つです。しかしながら、釈迦と違い私のような凡夫にはこの八つの修行を積むことはほぼ不可能です。凡夫にできることは、日常の生活の中で八正道の修行を積んでいる方を見極め、その人から学ぶことかと考えます。
昨年11月後半から12月にかけて、サッカーワールドカップカタール大会が開催されました。日本代表が入った1次リーグは優勝候補のドイツとスペインがいる死のグループといわれ、4チームのうち2チームが決勝トーナメントに進むことから、日本は1次リーグ敗退が予想されました。ところが初戦のドイツ戦で勝利し日本中喜びに沸き上がりました。しかし次のコスタリカ戦ではまさかの敗北を喫し、失望した人たちから様々な批判がSNS等で発信されました。奇跡は2度おき最後のスペイン戦で劇的な勝利を飾り、日本は死のグループ1位で決勝トーナメント進出を果たし、再び喜びに沸きました。翌日の新聞を楽しみに見たところ、大活躍した選手の意外なコメントが載っていました。
ある選手は「コスタリカに負け、選手や監督がいろいろ言われて正直腹が立った。」また別の選手は「僕たちは天国から地獄まで見た」と語っていました。監督の談話は違いました。日本チームの森保監督は「手のひら返しは当たり前。国民の皆さんがサッカーに興味を持ってもらい、議論してもらえるのが非常にうれしい」と語りました。監督は、批判をよく検討し次につなげたいと考えたと思います。森保監督は八正道の修行を積んでいると思われます。
世界中に知られているお坊さんの一人に、越後の良寛さんがおられます。良寛は出雲崎の名主の家に生まれますが、22歳で出家し岡山県玉島の禅寺円通寺で厳しい修行を積みました。その後、40歳のとき故郷に戻り国上山の中腹にある五合庵に移り住みました。五合庵で約20年、麓の乙子神社の社務所で約10年計約30年をお一人で暮らしましたが、周りに人家がない雪深い山中でどんなにか大変であったか、想像するだけでも恐ろしくなります。その山中の粗末な住まいで今に残る膨大な数の漢詩・詩歌・俳句・書の名作を顕しました。
良寛が大切にした言葉に「和顔愛語」がありますが、人に接するとき和やかで穏やかな顔で温かい優しい言葉をかけることに心掛けたことを意味します。良寛は山中に住み、毎日のように山を下りて村里に出向き托鉢をして米や野菜をもらって生活したわけですが、行った先の村々で和顔愛語の精神で大人にも子供にも接しました。良寛が子供と手毬やかくれんぼをして遊んだことは今に伝えられています。良寛が慕われていたことが、74歳で亡くなり葬式の日に550人以上の村の人たちがお別れに列をなしたことからも偲ばれます。
釈迦の弟子を認じていた良寛は八正道の修行を完成させたと考えます。