「人は必ず失敗する」について(2019年10月テレフォン法話)

 今月は、「人は必ず失敗する」についてお話します。先月、人間は脳が非常に発達していることから記憶力が良すぎて苦しいことをいつまでも覚えており、苦しみが大きくなっていく。人間以外の動物のように苦しいことは早く忘れることが大切と話しました。こんどは苦しみに対処する別のやり方、考え方があることを知りました。
 先月、新聞に新潟市内の女子高校生が佐賀市内にある大隈重信記念館を取材に訪れ、レポートした記事が載っていました。大隈重信は早稲田大学を創立したことで知られており、受験の時期になると、早稲田大学の構内に大きな銅像が立っている写真をたびたび目にします。他にも大隈は明治維新の立役者の一人として活躍したわけですが、レポートによると首相を2回務め、銀行やお金の制度を変えるなど近代日本の立ち上げに大きな功績を残しています。
 その記事の中で、大隈が「諸君は必ず失敗する」という言葉を残しているという一文がありました。大隈が彼の生き方の基本的な考えとして、どんな人でも人間は必ず失敗するものであり、失敗したらどうして失敗したかを考え、同じ失敗をしないためにはどうすべきか検討してより正しいやり方を決める。
つまりは失敗したことに苦しむより、次に失敗しない方法を考える、失敗を自分の成長や仕事に生かすことのほうがはるかに大切と考えたわけです。彼はこの考え方で、明治維新の数々の難事業を多くの失敗を経験することにより、政府の中心として成し遂げることができたと思われます。
 実際レポートには若いころ通っていた藩校を退学してしまったり、爆弾テロで右足を失ってしまったりするなど順調な人生ではなかったと書かれています。この言葉を見て、以前勤めていたころの上司の言葉を思い出しました。その方は最も上の立場の方でしたが、私ども部下に「俺は、お前らがいくら失敗しても二度とやるなよとは言うけど怒りはしない。失敗するということは仕事をしているからで仕事をしない奴は失敗するわけがない。失敗を恐れず積極的に取り組んでくれ。」とよく言っておられました。その方はもう亡くなられていますので、この大隈の言葉を見て上司の顔が懐かしく目に浮かびました。
 この大隈の言葉は、釈迦の最も重要な悟りである諸行無常に通じるものがあると思います。諸行無常とは、この世の全ては絶えず変化するということが宇宙の真理であるという意味で、我われ人間もやがては死んで別のものに変化するように、人の考えや気持ち、社会の仕組みといった全てのものが変化するということを示しています。このことから大隈は、失敗から多くのことを学び同じ失敗を繰り返さない、失敗から得た教訓をもとに成長した自分に変えていくといった諸行無常の教えを実践していたと言えると考えられます。
しかしながら、失敗しても何もひるむことなく新たな道を見つけ国の発展のために改革に突き進んでいくことは、大隈のように強い意志と精神力を持つ者ができることであり、私のような凡人は失敗からなかなか立ち直れません。
 私の場合失敗の苦しみをできるだけ早く忘れることから始め、次にいろんな人に相談しながら失敗を自己の成長に繋げる道を探したいと考えます。


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