「人間と植物の生き方の違い」について(2021年5月テレフォン法話)

 今月は、「人間と植物の生き方の違い」について考えます。
 先月ブックオフの書架を見ていて「なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか」のタイトルを見つけ買って読んでみました。その本は植物学者の稲垣栄洋農学博士の著書で、66の植物の仏教との切っても切れない関係を示した興味深いものでした。
 蓮については、仏教では古くから神聖な存在とされ、仏像は蓮華座と呼ばれるハスの花の台座に座っています。「ハスは泥より出でて泥に染まらず」といわれるように、不浄な人間社会を表す泥から出て極楽浄土に咲くにふさわしい存在として尊ばれたと書かれています。読み進んでいくうちに最後の方に著者が植物と人の生き方を比較して訴えたいことがあるように感じました。
 著者は言います「植物は、変えることができない環境の下で迷うことなく生きています。植物は愚痴も言わず、悩むことなくただただ生きていくのです。それに比べて人間はときに思い悩み、苦しみます。考えすぎた挙句判断を誤ることもあります。そして、後悔もするのです。」また、般若心経を現代詩訳した生命科学者、柳澤桂子さんの著書の一節「人はなぜ苦しむのでしょう・・・ ほんとうは 野の花のように わたしたちも生きられるのです」を引用しています。柳澤さんは般若心経が説く「自分はダメだ、苦しい、自分がかわいそう、自分はあれが欲しい、自分はあの人と仲良くなりたいなど自分中心の考えは捨てなければいけない」との教えが分かれば、野の花のように迷わず、悩まず、苦しまず、後悔せず生きていくことができるといっていると思われます。
 著者は、植物にない人間の優れた面として「生きていくために必要のない花を見て美しいと思うのは、人類だけが獲得した感覚です。花を見て美しいと思う心こそ動物と人間とを区別するものなのです。花だけではありません。私たちは様々なものを美しいと感じます。空や海の風景も美しい。若葉や紅葉の風景も美しい。絵画や音楽、詩も美しい。ときには汗や涙を美しいと感じることもあります。景色や音楽に美しさを感じる感覚はずいぶんと生き方を豊かにしてくれます。そして、生きる力を取り戻すこともあります。この世は美しさに満ちあふれています。せっかく人間に生まれたのですから、美しいこの世界を十分に楽しみたいものです。」と述べています。
 仏教では、心の美しさを自分自身や他の人に見出すことの大切さを教えています。真言宗の宗祖弘法大師空海様は即身成仏を教えの中心としましたが、生きながらにしてこの身このまま仏になることを意味するこの教えは、自分自身の中に仏の美しい心の存在を見出し、この美しい心により悩み苦しむ生きとし生けるものを救いたいと決意し、行動することではないかと考えます。現在、コロナ禍が全世界を恐怖に陥れています。そんな中仕事を失い、収入が激減して日々の生活や子育てに困窮する方々を救うため、ボランティア活動に取り組む人達の姿がテレビに映しだされるのを見て、仏の美しい心を感じとり、感動で涙する思いです。私はこの本を読んで植物が人間より優れている面があることを知りました。しかし、人間のもう一つの優れた面として何にでも学ぶことができる能力があります。ですから、植物からもしっかり学ばせてもらいます。


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